小児急性脳症とは

小児急性脳症とは?

急性脳症はインフルエンザ、突発性発疹症(ヒトヘルペスウイルス6, 7型)、胃腸炎(ロタウイルス)などの感染症に伴い中枢神経の機能不全を呈する重篤な疾患です。神経症状としては意識障害、けいれん、異常言動が重複して認められることが多く、わが国の乳幼児に好発します。急性脳症は、小児急性脳症診療ガイドライン2016 [1]で「Japan Coma Scale (JCS) 20以上の意識障害が急性に発症し24時間以上持続する」と定義されました。1. 感染症の経過中に発症する、2. CT・MRIで脳浮腫が描出される、3. 他疾患を鑑別することが付記されています。
急性脳症は、感染を契機とした免疫反応や過剰なサイトカイン(サイトカンストーム)、興奮性アミノ酸による興奮毒性、代謝異常によって神経細胞の機能異常をきたすと考えられ、病態ごとに特徴的な臨床・画像所見を呈する複数の脳症症候群の複合体です。けいれん重積型(二相性)急性脳症(acute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion [AESD])、可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎脳症(clinically mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion [MERS])、急性壊死性脳症(acute necrotizing encephalopathy [ANE])、出血性ショック脳症症候群(hemorrhagic shock and encephalopathy syndrome [HSES])、難治頻回部分発作重積型急性脳炎(acute encephalitis with refractory, repetitive partial seizures [AERRPS])が脳症症候群として確立されています。これらの症候群に分類できない患者さんも40%程度存在します。先行感染として前述のインフルエンザ、突発性発疹症(HHV-6,7)、ロタウイルス胃腸炎が高頻度ですが、ウイルス毎に呈しやすい脳症症候群はあるものの1対1対応をするわけではありません。

急性脳症の疫学

急性脳症のウイルス(病原)別分類と症候群分類の全国調査は、「重症・難治性急性脳症の病因解明と診療確立に向けた研究班(水口班)」により2010 [2], 2017年 [3, 4] に施行されました。2017年のデータによると、国内の1年あたり症例数は500-800人、0-3歳の乳幼児に最も多く、症候群別(図1-A)では多い順にAESD (34%)、MERS (18%)、ANE (3%)であり、分類不能も37%でした [4]。2回の調査で明らかな差異は認められていません。病原別(図1-B)では多い順にインフルエンザウイルス (16%)、HHV-6,7 (16%)、ロタウイルス (4%)、RSウイルスとなっています。脳症全体の予後(図1-C)は治癒(56%)、神経学的後遺症(36%)、死亡(5%)であり、いまだ重篤な疾患であることが示されます。
症候群別の調査からは各々の特徴も明らかとなっている。発症平均年齢(図1-D)はAESD=1.6歳、MERS=5.6歳、ANE=2.5歳、病原別頻度(図1-B)はAESD(インフルエンザウイルス/HHV-6,7/ロタウイルス=7/32/1%)、MERS(22/5/9%)、ANE(34/16/6%)、予後(図1-C)はAESD(治癒/後遺症/死亡=34/61/2%)、MERS(94/5/0%)、ANE(23/45/26%)でした。すなわち、典型例は1歳前後で突発性発疹症に伴って発症し、後遺症を残しやすいAESD、乳幼児期にインフルエンザに伴って発症し、いまだに死亡率の高いANE、幼稚園児から学童にインフルエンザや胃腸炎に伴って発症し予後良好なMERSとなります。
各症候群の詳細については「こちら」を参照ください。

  • 図1-A 脳症症候群別頻度の2010, 2017年調査の比較(文献4より)

  • 図1-B 脳症症候群の病原体(2017年調査)(文献4より)

  • 図1-C 脳症症候群別の予後(2017年調査)(文献4より)

  • 図1-D 脳症症候群別の発症年齢(2017年調査)(文献4より)

参考文献

  1. 日本小児神経学会(監修)小児急性脳症診療ガイドライン改訂ワーキンググループ(編集). 小児急性脳症診療ガイドライン2023. 東京:診断と治療社 2023.https://www.childneuro.jp/modules/about/index.php?content_id=34
  2. Hoshino A, Saitoh M, Oka A, et al. Epidemiology of acute encephalopathy in Japan, with emphasis on the association of viruses and syndrome. Brain Dev 2012; 34: 337-343.
  3. Kasai M, Shibata A, Hoshino A, et al. Epidemiological changes of acute encephalopathy in Japan based on national surveillance for 2014-2017. Brain Dev 2020; 42: 508-512.
  4. 平成 30 年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)良質なエビデンスに基づく急性脳症の診療に向けた体制整備研究班. 研究代表者;水口雅. 急性脳症の全国実態調査(第二回).https://encephalopathy.jp/nsurvey_data/h29_1.pdf