小児急性脳症に関する国内外の最新情報・文献

急性壊死性脳症の発症の遺伝的背景としてのサイトカイン(IL-6とIL-10)遺伝子多型(原著)

Association of IL6 and IL10 gene promotor polymorphisms with susceptibility to acute necrotizing encephalopathy

Hoshino A, Takahashi N, Oka A, Mizuguchi M.
Front Neurosci. 2023; 17: 1231957. DOI: 10.3389/frins.2023.1231957

IL6およびIL10遺伝子プロモーター多型と急性壊死性脳症感受性の関連
東京大学大学院医学系研究科発達医科学、小児科学、他 星野愛、高橋尚人、岡明、水口雅
(オープンアクセス)

論文の概要

【目的】急性壊死性脳症(ANE)は感染症の重篤な合併症で、脳と全身臓器を傷害する。主な病態はサイトカインストームであり、サイトカインの中でもIL-6とIL-10が主役である可能性がある。両者がANEの病因・病態において果たす役割をさらに解明するため、IL6遺伝子とIL10遺伝子のプロモーター領域の多型について遺伝学的解析と機能解析を加えた。
【方法】初めにIL6遺伝子の4つの多型とIL10遺伝子の3つの多型について症例対象関連解析を行なった。日本人のANE 31症例の遺伝子を解析し、結果を約200人の対照例と比較した。次にANEとの関連が示唆された2つの多型について、リンパ芽球によるIL-6やIL-10の産生(PMA刺激による)に影響を及ぼすかを調べた。
【結果】IL6遺伝子のrs1800706G多型とIL10遺伝子のrs1899871/1899872多型はANEにおいて対照より高率であった。IL10遺伝子のrs1899871/1899872多型はIL-10低産生と関連していたが、IL6遺伝子のrs1800706G多型はIL-6多型と関連しなかった。
【結論】IL10遺伝子のrs1899871/1899872多型はIL-10産生を変えることにより日本人小児のANE感受性要因となる可能性がある。IL6遺伝子のrs1800706G多型の意義についてはさらに研究が必要である。

病院前救急診療と痙攣重積型急性脳症 (AESD)発症の関連(原著)

Risk Factors of Prehospital Emergency Care for Acute Encephalopathy in Children With Febrile Status Epilepticus.

Arai Y, Okanishi T, Kanai S, Nakamura Y, Kawaguchi T, Ohta K, Maegaki Y.
Pediatr Neurol. 2023 Oct;147:95-100.

病院前救急診療と痙攣重積型急性脳症 (AESD)発症の関連(原著)
鳥取大学医学部附属病院脳神経小児科 荒井勇人、岡西徹、金井創太郎、中村裕子、川口達也、太田健人、前垣義弘

論文の概要

病院到着前の救急隊の情報からの痙攣重積型急性脳症発症要因を明らかにすることは、迅速で適切な救急介入を可能にする。我々は、有熱時てんかん重積を発症した小児患者の病院前診療の情報を調査し、発症に関連するリスク要因を特定する研究を行った。結果、発症から病院到着までの時間の遷延、救急車内での酸素状態の悪さ、抗てんかん薬投与までの時間の遷延が痙攣重積型急性脳症の発症と関連していることが明らかになった。また、これらの因子は既知の痙攣重積型急性脳症の予測スコアと有意に相関した。ROC曲線を用いて発症のカットオフ値を求めたところ、病院到着までの時間が38分、抗てんかん薬投与までの時間が50分であった。したがって、搬送時間の短縮、救急車内での呼吸管理の改善、および口腔内ミダゾラムなどの早期の抗てんかん薬の投与が痙攣重積型急性脳症の発症を予防する可能性がある。

患児由来誘導ミクログリア様細胞の不均一性と多様性(原著)

Heterogeneity and mitochondrial vulnerability configurate the divergent immunoreactivity of human induced microglia-like cells.

Yonemoto K, Fujii F, Taira R, Ohgidani M, Eguchi K, Okuzono S, Ichimiya Y, Sonoda Y, Chong PF, Goto H, Kanemasa H, Motomura Y, Ishimura M, Koga Y, Tsujimura K, Hashiguchi T, Torisu H, Kira R, Kato TA, Sakai Y*, Ohga S.
Clin Immunol 255:109756, 2023. doi: 10.1016/j.clim.2023.109756

患児由来誘導ミクログリア様細胞の不均一性と多様性(原著)
九州大学大学院医学研究院成長発達医学分野(小児科学) 米元耕輔、藤井史彦、平良遼志、酒井康成ら

論文の概要

けいれん重積型急性脳症をはじめ、小児期の発熱疾患にともなう中枢神経傷害の発症メカニズムは明らかにされていない。当グループは、広く神経炎症性疾患を解析対象として、これらのインビトロモデルを構築する研究に取り組んできた。今回、健常成人および神経炎症性疾患に罹患した患児末梢血(3-5 ml)由来CD11b陽性単球画分を分離し、ミクログリア様細胞(iMG)を効率よく分化させる条件を確立した。本報告では、健常成人11名および患児24名からiMGを分化させ、自然免疫リガンド (LPSおよびPolyI:C)に対する炎症応答について、バルクmRNAおよびタンパク質レベルで比較分析した。iMG内では、LPSおよびPolyI:Cに対してそれぞれ固有の炎症関連シグナルが活性化され、その活性化レベルは細胞間で不均一であり、かつ異なる個体間で多様性を示した。とくにIL-1β産生はCD14発現レベルと相関した。これらの炎症シグナルの活性化レベルとミトコンドリア不安定性は密接な関係にあり、ピルビン酸リン酸化酵素M2 (PKM2) vs. 同M1アイソフォームの発現量比が、上記刺激後に変化することを確認した。さらにLPS刺激後のIL-1β産生および炎症シグナルの活性化レベルは、PKM2活性化試薬DASA-58前処理によって抑制された。これらの結果は、ミクログリアの不均一性が、神経炎症性疾患の発症に関して個々に多様な感受性を与える可能性を支持した。また小児神経炎症性疾患に対する新たな治療標的候補が見出された。

発熱を伴う発作を認めたCOVID-19を有する小児と有さない小児における神経学的症状の比較(原著)

Comparison of neurological manifestation in children with and without coronavirus 2019 experiencing seizures with fever.

Hongo H, Nishiyama M, Ueda T, Ishida Y, Kasai M, Tanaka R, Nagase H, Maruyama A.
Epilepsy Behav Rep. 2023;24:100625. doi: 10.1016/j.ebr.2023.100625. eCollection 2023.

発熱を伴う発作を認めたCOVID-19を有する小児と有さない小児における神経学的症状の比較(原著)
兵庫県立こども病院、神戸大学小児科 本郷裕斗、西山将広、丸山あずさ、永瀬裕朗、他

論文の概要

SARS-CoV-2による神経症状が非SARS-CoV-2ウイルス感染によるものと異なるかどうかは明らかになっていない。われわれは、COVID-19群(n=20)と非COVID-19群(n=85)の臨床的特徴と治療法を比較した。COVID-19患者は非COVID-19患者より高齢であった(32.5[20-86]ヵ月 vs 20[16-32]ヵ月、p = 0.029)。発作のタイプと持続時間、意識障害の持続時間は群間で差がなかった。COVID-19群では6例、非COVID-19群では32例が30分以上のてんかん重積状態を経験した。ほとんどの治療に群間差はなかったが、COVID-19では脳波計の使用頻度が低かった。神経学的後遺症はCOVID-19群で1例、非COVID-19群で4例にみられた。結論として、SARS-CoV-2による発熱を伴う発作は年長児に多かった。発作の特徴および神経学的後遺症はCOVID-19の有無にかかわらず差がなかった。一般に、COVID-19では感染対策として脳波検査はあまり行われなかった。

SCN1A遺伝子欠失に関連したドラべ症候群・出血性ショック・脳症症候群の1例(症例報告)

Dravet syndrome and hemorrhagic shock and encephalopathy syndrome associated with an intronic deletion of SCN1A.

Hanafusa H, Yamaguchi H, Kondo H, Nagasaka M, Juan Ye M, Oikawa S, Tokumoto S, Tomioka K, Nishiyama M, Morisada N, Matsuo M, Nozu K, Nagase H.
Brain Dev. 2023 Jun;45(6):317-323. doi: 10.1016/j.braindev.2023.01.008.

SCN1A遺伝子欠失に関連したドラべ症候群・出血性ショック・脳症症候群の1例(症例報告)
神戸大学小児科 花房宏昭、山口宏、永瀬裕朗 他.

論文の概要

出血性ショック・脳症症候群(HSES)の発症機序は未だ不明である。本研究では、HSESを発症した臨床的にDravet症候群(DS)が疑われる患者の遺伝的背景を明らかにするために遺伝子解析を行った。全エクソームシークエンシングを行った後、全エクソームシークエンシングで検出されたイントロンの変異についてミニ遺伝子解析を行い、スプライシングへの影響を確認した。全エクソーム配列決定により、SCN1A NM_001165963.4のイントロン3に21bpの新規欠失が見つかった(NC_000002.11:g.166073675_166073695del)。この欠失は患者の両親には見られず、de novoであることが証明された。ミニ遺伝子解析の結果、SCN1Aのエクソン4の5'末端から40bpと106bpが欠失した異常なmRNAが発見された。の5'末端から40bpと106bpを欠く異常なmRNAを発見した。したがって、本症例はSCN1Aのイントロン3の欠失によるDSと診断した。

病原性大腸菌による溶血性尿毒症症候群(HUS)関連脳症の予後因子(原著)

Prognostic factors among patients with Shiga toxin-producing Escherichia coli hemolytic uremic syndrome: A retrospective cohort study using a nationwide inpatient database in Japan.

Myojin S, Michihata N, Shoji K, Takanashi JI, Matsui H, Fushimi K, Miyairi I, Yasunaga H.
J Infect Chemother 2023; 29(6): 610-614.

病原性大腸菌による溶血性尿毒症症候群(HUS)関連脳症の予後因子(原著)
国立成育医療センター感染症科、東京女子医科大学八千代医療センター、浜松医科大学小児科、明神翔太、庄司健介、髙梨潤一、宮入烈、他

論文の概要

病原性大腸菌による溶血性尿毒症症候群(HUS)に伴う急性脳症は、2011年の大腸菌O111による多発例をはじめ重篤な脳症を発症しうる。本論文では、DPCデータから病原性大腸菌に伴う急性脳症の実態を調査した。615 人の STEC-HUS 患者(年齢中央値 7 歳)のうち 30 人(4.9%)の患者が急性脳症を患い、24 人(3.9%)が入院後 3 か月以内に死亡した。 重大な予後不良因子は、18歳以上の年齢、メチルプレドニゾロンパルス療法、抗てんかん薬の投与、および入院後2日以内の呼吸補助であった。

治療目標と治療開始時期に焦点を当てた小児の感染症誘発性脳症症候群/急性脳症文献のスコーピングレビュー(原著)

Timing of therapeutic interventions against infection-triggered encephalopathy syndrome: a scoping review of the pediatric literature.

Nagase H, Yamaguchi H, Tokumoto S, Ishida Y, Tomioka K, Nishiyama M, Nozu K, Maruyama A.
Front Neurosci. 2023:17:1150868. doi: 10.3389/fnins.2023.1150868.

治療目標と治療開始時期に焦点を当てた小児の感染症誘発性脳症症候群/急性脳症文献のスコーピングレビュー(原著)
神戸大学小児科、兵庫県立こども病院神経内科、永瀬裕朗、山口宏、徳本翔一、冨岡和美、野津寛大、石田悠介、西山将広、丸山あずさ

論文の概要

われわれは、小児の感染症誘発性脳症症候群/急性脳症の治療に関して、治療目標と治療開始時期に焦点を当てた文献のスコーピングレビューを行った。複数の研究で以下の3点が有効であることが示唆された: (1)多臓器不全を伴わない熱性けいれん/遷延性意識障害発症後12時間以内(T1)の慎重なけいれん管理と体温管理療法は、二相性けいれんや後期の拡散低下を伴う急性脳症の発症を抑制する可能性がある。(2)急性壊死性脳症発症後24時間以内(T1~T2)のコルチコステロイド、トシリズマブ、血漿交換を用いた免疫療法は、後遺症を軽減する可能性がある; (3)アナキンラ療法とケトン食療法は、神経学的後遺症軽減のエビデンスはほとんどないが、発熱性感染症関連てんかん症候群の小児において、発症から数週間後(T4)に投与した場合でも、発作頻度を減少させ、バルビツレートからの離脱を可能にする可能性がある。

小児急性脳症画像診断の最新情報(総説)

Neuroimaging in acute infection-triggered encephalopathy syndromes.

Takanashi J, Uetani H.
Front Neurisci 2023; 17: 1235364. DOI: 10.3389/fnins.2023.1235364

小児急性脳症画像診断の最新情報(総説)
東京女子医科大学八千代医療センター小児科、熊本大学放射線科、髙梨潤一、上谷浩之
(オープンアクセス)

論文の概要

急性脳症は、急性壊死性脳症(ANE)、ライ症候群、けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)などの症候群の集合体である。各症候群は特徴的な画像所見、特に MRI所見を呈し、診断の根拠となっている。本論文は現時点での画像診断の最新情報を記載している。脳血流を非侵襲的に観察する arterial spin labelling (ASL) は従来のT1, T2, FLAIR、拡散強調像に加えて新たな脳機能情報を提供する。けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)で、拡散強調像でのbright tree appearanceの出現前にASLで認められる病変部位の低環流は、AESDの早期診断に役立つ可能性を秘めている。脳代謝を観察しうるMR spectroscopy (MRS)はグルタミン興奮毒性検出、脳症予後予測に有用である。

急性脳症のリスク因子となる遺伝要因・環境要因(総説)

Genetic and environmental risk factors of acute infection-triggered encephalopathy

Mizuguchi M, Shibata A, Kasai M, Hoshino A.
Front Neurosci. 2023; 17: 1119708. DOI: 10.3389/fnins.2023.1119708

急性感染症関連脳症の遺伝的・環境的リスク因子
東京大学大学院医学系研究科発達医科学、心身障害児総合医療療育センター、他 水口雅、柴田明子、葛西真梨子、星野愛
(オープンアクセス)

論文の概要

急性脳症は、急性壊死性脳症(ANE)、ライ症候群、けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)などの症候群の集合体である。それぞれの症候群では免疫反応(全身・神経の炎症)、代謝(エネルギー産生不全)、神経興奮(てんかん重積)の変化がさまざまな程度と様相で生じる。病気の発症や進行には、複数の遺伝要因と環境要因が関与する。従来からの研究により、環境要因としては、先行感染症の病原体であるインフルエンザウイルス、HHV-6(突発性発疹の病原ウイルス)、腸管出血性大腸菌などが、病態を悪化しうる薬剤である抗炎症薬(NSAIDs)、抗てんかん薬(バルプロ酸)、気管支拡張薬(テオフィリン)などが挙げられている。また遺伝要因としては、遺伝子の変異(SCN1A遺伝子、RANBP2遺伝子ほか)や多型(酵素CPT2の熱感受性バリアント、ヒト白血球抗原型ほか)が見出されている。これらの因子は免疫反応、代謝、神経興奮などの変化を通じて病態を複雑化している。その一方、これらの因子の中には予防・治療の標的の候補として有望なものが含まれ、急性脳症の予防や治療の新しい方法の開発につながる可能性を秘めている。

急性脳症と熱性けいれんにおける発症後72時間のサイトカイン動態

Time course of serum cytokine level changes within 72 h after onset in children with acute encephalopathy and febrile seizures.

Tomioka K, Nishiyama M, Tokumoto S, Yamaguchi H, Aoki K, Seino Y, Toyoshima D, Kurosawa H, Tada H, Sakuma H, Nozu K, Maruyama A, Tanaka R, Iijima K, Nagase H.
BMC Neurol. 2023 Jan 7;23(1):7. doi: 10.1186/s12883-022-03048-8.

急性脳症と熱性けいれんにおける発症後72時間のサイトカイン動態
神戸大学大学院医学研究科 小児科
兵庫県立こども病院 神経内科、総合診療科、小児集中治療科
冨岡和美、西山将広、佐久間啓、永瀬裕朗ほか
(オープンアクセス)

論文の概要

【目的】急性脳症の病態解明や熱性けいれんとの鑑別診断のためのバイオマーカーとしてサイトカイン解析が試みられてきたが、てんかん発作や意識障害の出現後のサイトカイン動態は不明である。本研究では、急性脳症と熱性けいれんにおける神経症状出現後72時間以内の血清サイトカイン値の時間的変化を調べた。
【方法】発症(=てんかん発作や意識障害の出現)からの時間経過と照合した血清を用いた後方視的検討。最終診断が急性脳症または熱性けいれんの小児7例の血清を用いて、Bio-Plexマルチプレックスイムノアッセイ法でサイトカインを測定し、発症後72時間以内の経時的動態を解析した。
【結果】対象は急性脳症5例(HSES3例、AESD2例)、熱性けいれん2例。各症例の複数時点での採取により計29検体を解析した。IL-1β, IL-4, IL-5, IL-6, IL-8, IL-10, IL-17, eotaxin, FGF, GCSF, IFN-γ, IP-10, MCP-1の13サイトカインは発症後すぐに増加し,発症後12–24時間以内にピークとなった。IL-1RA, MIP-1α, PDFG-bbの3つのサイトカインは72時間以内のダイナミックな変化を認めなかった。IL-1β, IL-4, IL-5, IL-17, FGF, IFN-γは発症後48時間以内に正常範囲内まで低下した。急性脳症では熱性けいれんよりもサイトカインが高い傾向を認め、特にHSESでほとんどのサイトカインがFSより高値であった。
【結論】急性脳症における炎症病態についての新たな知見が得られた。多くのサイトカインが発症後数時間で上昇し、12–24時間以内にピークアウトしていたことから、急性脳症の抗炎症治療は発症後12–24時間以内の開始が望ましいことが示唆された。

複雑型熱性けいれんの臨床像および血液検査所見

Clinical and laboratory characteristics of complex febrile seizures in the acute phase: a case-series study in Japan.

Tanaka T, Yamaguchi H, Ishida Y, Tomioka K, Nishiyama M, Toyoshima D, Maruyama A, Takeda H, Kurosawa H, Tanaka R, Nozu K, Nagase H.
BMC Neurol. 2023 Jan 18;23(1):28. doi: 10.1186/s12883-023-03051-7.

複雑型熱性けいれんの臨床像および血液検査所見
神戸大学大学院医学研究科 小児科
兵庫県立こども病院 神経内科、総合診療科、小児集中治療科
田中司、西山将広、永瀬裕朗ほか
(オープンアクセス)

論文の概要

【目的】複雑型熱性けいれんの臨床像は多彩であり、発作重積、意識障害遷延、検査値異常を呈する症例も少なくないが、その臨床像および検査所見の標準範囲は不明である。本研究では、複雑型熱性けいれんの急性期の臨床像および血液検査所見を調査した。
【方法】前方視的に収集したコホートと診療録を用いて、発作持続時間、意識障害持続時間などの臨床像および血液検査所見を後方視的に解析し、要約統計を行った。2002年10月から2017年3月に兵庫県立こども病院に入院し、複雑型熱性けいれんと診断された6–60か月の小児486例のうち、神経学的既往68例、データ欠損22例を除外した。さらに、意識障害持続時間に影響する抗けいれん薬持続投与を受けた45例、体温管理療法を受けた34例も除外した317例が対象となった。
【結果】けいれん性てんかん発作を296例に認め、発作持続時間は中央値30.5分(範囲 1–410分)であった。意識障害持続時間は中央値175分(範囲 1–1260分)であり、6時間、8時間、12時間以上の意識障害遷延を、それぞれ13.9%、7.6%、1.9%の症例に認めた。血液検査所見の中央値(3–97% tile)はそれぞれ、WBC 10,900/μL(4200–27215); AST 36U/mL(25–74); ALT 15U/mL(9–43); Cre 0.26mg/dL(0.17–0.40); Glu 130mg/dL(80–266); pH 7.362(6.898–7.471)であった。
【結論】最大規模の連続した入院症例コホートの解析にて、複雑型熱性けいれんの意識障害持続時間、発作持続時間、血液検査所見の標準範囲が明らかとなった。有熱性てんかん発作の適切な重症度評価、急性期管理に資することが期待される。

小児急性脳症治療法の2015年から2021年にかけての変遷

Changes in the treatment of pediatric acute encephalopathy in Japan between 2015 and 2021: A national questionnaire-based survey

Murofushi Y, Sakuma H, Tada H, Mizuguchi M, Takanashi J.
Brain Dev. 2022; S0387-7604 (22) 00189-9. DOI: 10.1016/j.braindev.2022.10.008. DOI: 10.1016/j.braindev.2021.07.008

小児急性脳症治療法の変遷;2015年から2021年にかけての国内アンケート調査
東京女子医科大学八千代医療センター小児科 室伏佑香、佐久間啓、高梨潤一、他
(オープンアクセス)

論文の概要

【はじめに】小児の急性脳症の治療指針の一つとして、2016年に「小児急性脳症診療ガイドライン2016」(以下、脳症GL2016)が発行された。本研究は、日本全国における小児急性脳症の治療に関して、2021年時点での実態把握および、2015年(脳症GL2016発行以前)からの治療の変遷を明らかにすることを目的とし、アンケート調査を行った。
【方法】2021年10月、小児神経疾患の診療に関わる医師に向けて、WEBアンケートをメールで送り、結果を集計した。
【結果】脳症治療にあたり大半の施設で脳症GL2016を参考にしていた。2015年から2021年にかけて、体温管理療法(Targeted temperature management)、ビタミンの投与、持続脳波モニタリングを行う施設が増えた。体温管理療法は、脳低温療法が減少し、脳平温療法が主体となった。脳症GL2016で推奨されている、サイトカインストームによる急性脳症に対するステロイド投与2015年時点ですでに多くの施設で行われていた。
【結論】脳症GL2016は、これまでに蓄積された知見の普及に有用である。急性脳症の治療に関する有効性と適応のエビデンスは不十分であり、さらなる検討の必要がある。

小児患者におけるFosphenytoinの投与方法と最適な血中濃度測定のタイミング

Fosphenytoin dosing regimen including optimal timing for the measurement of serum phenytoin concentration in pediatric patients.

Okamoto G, Furuya E, Terada K, Yasukawa K, Takanashi J, Kobayashi E.
Brain Dev. 2022; 44(10):725-731. doi: 10.1016/j.braindev.2022.06.012.

小児患者におけるFosphenytoinの投与方法と最適な血中濃度測定のタイミング
東京女子医科大学八千代医療センター薬剤部・小児科 岡本剛、安川久美、髙梨潤一、ほか
(オープンアクセス)

論文の概要

てんかん重積状態に対するホスフェニトイン (FOS) の小児用量は初回22.5 mg/kg、維持量5-7.5 mg/kg/日とされている。しかし、この用量を実臨床で用いた場合、血中総フェニトイン濃度 (CPHT) の有効域である10-20 μg/mLを維持できない症例が散見された。この論文では、2歳以上の小児における適切な投与方法とCPHTの測定タイミングについて検討した。
血清アルブミン値 (Alb値) が3.5 g/dL以上で、FOS初回投与2-4時間後および2回目投与前にCPHTを測定した小児患者12名を対象とした。うち4名は急性脳症に伴うけいれん重積またはけいれん群発に対してFOSが使用された。
初回投与量は22.1 (17.2-27.2) mg/kgで、初回投与2-4時間後のCPHTは13.4 (8.6-18.9) μg/mLであった。得られたCPHTから個々の薬物動態パラメータを算出し、CPHTをシミュレーションしたところ、初回投与12時間後、および24時間後のCPHTはそれぞれ9.5 μg/mLおよび5.8 μg/mLと推定された。さらに、初回投与量22.5 mg/kg、維持量として初回12時間後から5または7.5 mg/kgを12時間毎に投与した場合のCPHTをシミュレーションしたところ、8日目のCPHTは維持量5 mg/kgで5.74 (2.6-15.4)μg/mL、7.5 mg/kgで13.9 (5.7-31.0)μg/mLと推定された。
FOSの初回投与量22.5 mg/kgは適正と考えるが、24時間後には有効域を下回ると推定され、初回投与12時間後に維持量を開始することが妥当と考えられた。また、7.5 mg/kgを24時間毎に投与する維持量では有効域を下回ると予測され、5-7.5 mg/kgを12時間毎に投与する維持量が妥当と考えられた。さらに、初回投与2時間後と12時間後のCPHTは有効性評価と維持量の決定において重要な値であり、測定することが推奨される。

急性巣状糸球体腎炎に伴うMERSの発症に高サイトカイン・ケモカイン、低ナトリウム血症が関与する

Increased cytokines/chemokines and hyponatremia as a possible cause of clinically mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion associated with acute focal bacterial nephritis.

Okada T, Fujita Y, Imataka G, Takase N, Tada H, Sakuma H, Takanashi J.
Brain Dev 2022; 44: 35-40. DOI: 10.1016/j.braindev.2021.07.008

急性巣状糸球体腎炎に伴う可逆性脳梁膨大部病変を伴う軽症脳炎・脳症(MERS)の発症に高サイトカイン・ケモカイン、低ナトリウム血症が関与する
東京女子医科大学八千代医療センター小児科 岡田朋子、佐久間啓、高梨潤一ほか

論文の概要

【はじめに】可逆性脳梁膨大部病変を伴う軽症脳炎・脳症 (MERS) を発症する病因としてインフルエンザ、ロタ、ムンプスのウイルス感染症に次いで細菌感染症が4%を占める。細菌感染症の中でも尿路感染症、特に急性巣状細菌性腎炎(AFBN)の報告が目立つ。AFBNに伴うMERS患児の病態をサイトカイン・ケモカインから考案した。
【方法】症例はAFBNに伴うMERS 4症例。10種類の髄液・血液サイトカイン・ケモカイン、うち2例は血清サイトカインの経時的変化を検討した。
【結果】4例すべてに低ナトリウム血症(128-134 eEq/L)を認めた。髄液でTh1 (CXCL10, TNF-α, INF-γ), T reg (IL-10), Th17 (IL-6) , neutrophil (IL-8 and CXCL1) の高値、血清でTh1 (CXCL10, TNF-α, IFN-γ), Th17 (IL-6), and inflammasome (IL-1ß) の高値を認めた。経時的に観察しえた2例で、血清サイトカイン・ケモカインの高値は2週間以内に正常化した。
【考案】サイトカイン・ケモカイン高値と低ナトリウム血症はAFBNに伴うMERS発症要因と考えられる。

けいれん重積型急性脳症の経過中に出現する不随意運動は予後不良因子である

Involuntary movements as a prognostic factor for acute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion

Yosuke Miyamoto, Tohru Okanishi, Masanori Maeda, Tatsuya Kawaguchi, Sotaro Kanai, Yoshiaki Saito, Yoshihiro Maegaki
Brain Dev. 2022 Feb;44(2):122-130.

けいれん重積型急性脳症の経過中に出現する不随意運動は予後不良因子である
鳥取大学医学部附属病院脳神経小児科 宮本洋輔、岡西徹、前垣義弘ほか

論文の概要

【背景】けいれん重積型急性脳症(AESD)は二相性の臨床経過と大脳皮質下白質の拡散低下を特徴とする急性脳症で、不随意運動を伴うことがしばしばある。AESDの神経学的予後は正常のものから、知的障害や麻痺、てんかんなど軽度から重度の後遺症を呈するものまでさまざまである。本研究はAESDの予後因子を明らかにすることを目的とした。
【方法】1991年から2020年までに鳥取大学医学部附属病院へ入院したAESDの患者29人を対象とし、患者背景や発症初期の症状、検査所見、治療内容などの臨床データを後方視的に解析した。神経学的予後は、AESD発症から1年後のPediatric Cerebral Performance Category score、麻痺の残存をもとに評価した。
【結果】29例中、予後良好は12例、予後不良は17例であった。単変量解析では、基礎疾患の存在、初回けいれんから12-24時間後の意識障害、不随意運動が予後不良と相関した。多変量解析では、意識障害と不随意運動が予後不良と相関した。予後不良因子としての感度と特異度は、基礎疾患は53%および92%、意識障害(GCSスコアで3点以上の低下をカットオフとした)は92%および65%、不随意運動は59%および92%であった。
【結論】AESDの経過中に出現する不随意運動は予後不良と関連し、初回けいれん後の意識障害など既知の予後因子と同等と考えられた。

GDF-15は有熱性てんかん重積状態の予後予測マーカーである

Growth and differentiation factor-15 as a potential prognostic biomarker for status-epilepticus-associated-with-fever: A pilot study.

Yamaguchi H, Nishiyama M, Tomioka K, Hongo H, Tokumoto S, Ishida Y, Toyoshima D, Kurosawa H, Nozu K, Maruyama A, Tanaka R, Nagase H.
Brain Dev. 2022 Mar;44(3):210-220. doi: 10.1016/j.braindev.2021.10.003. Epub 2021 Oct 27.

GDF-15は有熱性てんかん重積状態の予後予測マーカーである
神戸大学大学院医学研究科 小児科
兵庫県立こども病院 神経内科、総合診療科、小児集中治療科
山口宏、西山将広、永瀬裕朗ほか

論文の概要

【目的】有熱性てんかん重積状態(FSE)の予後予測は臨床判断において重要であるが、早期予測は困難である。本研究では、FSE患者において、てんかん発作後の血清GDF-15の動態を調べ、発作後6時間以内のGDF-15と急性脳症および神経学的後遺症との関連を明らかにすることを目的とした。
【方法】2017年3月から2020年9月に兵庫県立こども病院に入院し、発熱に伴い30分以上の発作重積を呈したFSEの小児37例を対象とし、てんかん発作後24時間以内の血清GDF-15の経時的動態を解析した。さらに、発作後6時間以内のGDF-15を、最終診断が急性脳症の症例(脳症群)と遷延性熱性けいれんの症例(FS群)の2群、および後遺症の有無で2群に分けて比較した。
【結果】FSE37例の血清GDF-15値は経時的に変化し6–12時間でピークとなった[6時間未満 1,065 pg/mL (702–1,787); 6–12時間 2,720 pg/mL (1,463–5,264); 12–24時間 2,411 pg/mL (1,210–6,488), 中央値(四分位範囲)]。神経学的既往症のないFSE21例における発作後6時間以内の血清GDF-15は、脳症群6例ではFS群15例よりも有意に高値であり [脳症群 9,448 pg/mL (2,628–29,136); FS群 796 (692–1,645), 中央値 (四分位範囲), p=0.014]、後遺症ありの5例では後遺症なしの16例よりも有意に高値であった[後遺症あり 15,898 pg/mL (2,997–33,548); 後遺症なし 756 pg/mL (682–1,632), 中央値 (四分位範囲), p=0.001]。
【結論】FSEにおける血清GDF-15の動態が明らかとなった。GDF-15は有熱性てんかん重積状態の予後予測マーカーとなりうる。 

有熱性てんかん重積状態に対する治療戦略の違いによる後遺症やAESD発病への影響

Prognostic effects of treatment protocols for febrile convulsive status epilepticus in children.

Tokumoto S, Nishiyama M, Yamaguchi H, Tomioka K, Ishida Y, Toyoshima D, Kurosawa H, Nozu K, Maruyama A, Tanaka R, Iijima K, Nagase H.
BMC Neurol. 2022 Mar 5;22(1):77. doi: 10.1186/s12883-022-02608-2.

有熱性てんかん重積状態に対する治療戦略の違いによる後遺症やAESD発病への影響
神戸大学大学院医学研究科 小児科
兵庫県立こども病院 神経内科、総合診療科、小児集中治療科
徳元翔一、西山将広、永瀬裕朗ほか
(オープンアクセス)

論文の概要

【目的】有熱性てんかん重積状態における、ベンゾジアゼピン投与後の治療戦略は施設ごとに様々である。本研究では、有熱性けいれん性てんかん重積状態(FCSE)において、治療戦略の違いにより後遺症およびAESD発病の割合が異なるかを検討した。
【方法】兵庫県立こども病院での3期に分けたヒストリカルコホート研究である。1種類以上の抗けいれん薬投与後も60分以上のけいれん性てんかん重積状態を呈したFCSEを対象として、治療戦略ごとの後遺症およびASED発病の割合を比較した。治療戦略I(期間2002年10月~2006年12月):プロコトルなし、個別に主治医判断で治療を行う。治療戦略Ⅱ(期間2007年1月~2013年2月):ベンゾジアゼピン系薬剤に抵抗性のFCSEに対して麻酔療法および体温管理療法を行う。治療戦略Ⅲ(期間2013年3月~2016年4月):ベンゾジアゼピンに加えて、フォスフェニトインやフェノバルビタールに抵抗性のFCSEに対して麻酔療法および体温管理療法を行う。
【結果】対象110例において、治療戦略Ⅰに比べて治療戦略ⅡまたはⅢでは後遺症の割合が少なく(治療戦略Ⅰ:23%, 治療戦略ⅡまたはⅢ:7%, p=0.03)、AESD発病も少ない傾向であった(治療戦略Ⅰ:19%, 治療戦略ⅡまたはⅢ:7%, p=0.12)。治療戦略IIと治療戦略Ⅲの後遺症の割合に差はなかった(4.2% vs.11.1%,p=0.40)。脳波モニタリングの実施率は治療戦略Iよりも治療戦略ⅡまたはⅢで高く(11.5% vs. 85.7%, p<0.01)、ミダゾラム持続投与は治療戦略Ⅰよりも治療戦略ⅡまたはⅢで低かった(84.6% vs 25.0%, p<0.01)。
【結論】小児FCSEにおいて治療プロトコルの存在は転帰を改善し、脳波モニタリングとミダゾラム持続投与が影響した可能性がある。

急性脳症疑い例に対する早期ステロイドパルス療法

Early steroid pulse therapy for children with suspected acute encephalopathy: An observational study.

Ishida Y, Nishiyama M, Yamaguchi H, Tomioka K, Takeda H, Tokumoto S, Toyoshima D, Maruyama A, Seino Y, Aoki K, Nozu K, Kurosawa H, Tanaka R, Iijima K, Nagase H.
Medicine (Baltimore). 2021 Jul 30;100(30):e26660. doi: 10.1097/MD.0000000000026660.

急性脳症疑い例に対する早期ステロイドパルス療法
神戸大学大学院医学研究科 小児科
兵庫県立こども病院 神経内科、総合診療科、小児集中治療科
石田悠介、西山将広、永瀬裕朗ほか
(オープンアクセス)

論文の概要

【目的】サイトカインストーム型の急性脳症にはステロイドパルス療法が広く用いられているが、その有効性は不明である。本研究では、急性脳症が疑われる症例に対する早期ステロイドパルス療法の有効性を検討した。
【方法】2003年から2017年に兵庫県立こども病院に入院し、体温38℃以上の発熱を伴う難治性てんかん重積状態、または、6時間以上の遷延性意識障害を認め、かつ、発症から6時間以内のAST>90IU/Lの症例とした。けいれんまたは意識障害の出現後24時間以内にステロイドパルス療法を行った群(早期ステロイド治療群)と行わなかった群(非治療群)で転帰を比較した。転帰良好:最終評価時のPediatric Cerebral Performance Category Scale(PCPC)スコア1-2、転帰不良:PCPC3-6。さらに、発症からステロイドパルス療法までの時間と後遺症との関係を解析した。
【結果】対象20例のうち、早期ステロイド治療群は13例、非治療群は7例であった。治療群13例のうち8例(62%)、対照群7例のうち4例(57%)が転帰不良であり、両群間での有意差を認めなかった(p=1.00)。治療群13例のうち、脳幹病変のなかった11例では、ステロイドパルス治療開始時期が早いほど後遺症が軽い傾向を認めた(rs=0.583, p=0.06)。
【結論】神経症状出現後24時間以内のステロイドパルス療法にて後遺症は減少しなかったものの、より早い時期の治療開始による後遺症軽減の可能性が示唆された。

けいれん発症後早期の血液検査値を用いてけいれん重積型急性脳症の発症を予測する

Predicting the Onset of Acute Encephalopathy With Biphasic Seizures and Late Reduced Diffusion by Using Early Laboratory Data.

M. Maeda, T. Okanishi, Y. Miyamoto, T. Hayashida, T. Kawaguchi, S. Kanai, Y. Saito, Y. Maegaki.
Front Neurol 2021;12:730535.

けいれん発症後早期の血液検査値を用いてけいれん重積型急性脳症の発症を予測する
鳥取大学医学部附属病院脳神経小児科 前田真範、岡西徹、宮本洋輔ほか
(オープンアクセス)

論文の概要

【はじめに】急性脳症は主に東アジアでみられる感染症関連中枢神経疾患であり、壊死性脳症やけいれん重積型急性脳症(AESD)など疾患概念の確立された症候群を含む。AESDではearly seizure後にビタミン類の投与や脳低温療法などの介入をすることで予後を改善できる可能性が報告されてきているが、late seizure出現前にAESDと熱性けいれん(FS)を鑑別することが難しく、発症後早期の介入を阻んでいる。Tadaら、YokochiらからAESDの発症を予測するスコアが提唱され、臨床に応用されている。ただこれらのスコアは最初の血液検体のみを対象としていて、時間経過に伴う血液検査値の変動は検討されていない。また血液検査値の他に、けいれん持続時間や意識障害の程度など担当医によって評価に差が生じうる項目が含まれており、また抗けいれん薬の使用による意識レベル低下と区別しにくいこともあり、より客観的に評価が可能なスコアが必要と考えて今回検討した。
【方法】2005年10月から2020年9月の間で鳥取大学医学部附属病院へ入院し最終的にAESD、FSと診断された症例を対象として、けいれん持続時間、発症からのすべての血液検査値(血糖[BS]、クレアチニン[Cr]、AST、ALT、LDH、CK、CRP、白血球[WBC]、血小板、アンモニア[NH3]、pH)を収集した。最初のけいれん出現から検体採取までの時間を採取時間として計算した。
【結果】①患者背景の比較でAESD群の方が有意にけいれん持続時間が長かった。多変量解析を用いた結果、BS、Cr、WBC、NH3、pHの5項目において、けいれん持続時間とは独立して採取時間とAESD/FSの診断が有意に数値の変化に寄与していた。②採取時間を3時間未満、3時間以上24時間未満、24時間以上の3期間に区分し、各期間で上記5項目の血液検査値をAESD群とFS群で比較した。発症後3時間未満の採取でBS、Cr、WBC、NH3はAESD群で有意に高値、pHは有意に低値だったが、3時間以上の期間ではFS群との有意差がみられなかった。③発症後3時間以内に限った5項目の血液検査値について、AESDとFSを区別するカットオフ値をROC曲線から求め、点数付けし、予測スコアを作成した。BS ≥ 220 mg/dL、Cr ≥ 0.35 mg/dLをそれぞれ2点、WBC ≥ 25,000 /L、NH3 ≥ 75 g/dL、pH ≤ 7.25をそれぞれ1点としたところ、カットオフ値3点で感度91%、特異度94%の精度でAESDを予測することができた。またTadaら、Yokochiらの報告と同様に、けいれん持続時間、意識レベルを含めたスコアも同様の手順で作成した。先述のスコアにけいれん持続時間 ≥ 30分で1点、Glasgow Coma Scale ≤ 14で2点を加えたところ、カットオフ値6点で感度91%、特異度96%と、血液検査値のみの予測スコアとほとんど精度は変わらなかった。
【結論】血液検査値は時間経過で急速に変化し、今回の研究では発症後3時間未満でのみAESD群とFS群の有意差がみられた。多くの施設で緊急検査として測定できる項目を用いてAESDの発症を客観的に予測できることは臨床上有用と考えられた。